バフとデイヴ・エアニ(4)はザ・ローテーションズとして、サックス奏者のマイク・ディネリと共にレコーディングを行っていた。このエアニは一方では、トルネードーズに関わりをもっていた。トルネードーズはカリフォルニア州リバーサイドのウィリアム・ローキー・サウンド・カンパニーで最初の2枚のシングル(Bustin' Surfboardsと2部構成のThe Gremmie)を録音したが、イギリスのグループ、トルネードーズが Telstarでイギリスとアメリカで大ヒットを記録したばかりで、名前が同じであったことからヒットを出せなかった。
エアニは1962年12月、ザッパにザ・トルネードーズのエンジニアを依頼した。ザッパが最初にエンジニアを務めたのはThe SwagとRaw-Hideの2曲で、どちらもギタリストのリンク・レイの曲だった。これらの曲はかなり後になってからリリースされたが、このときトルネードーズは彼らの音楽を録音する際の創造的なアプローチを高く評価した。
トルネードーズのA面Moon Dawgは、バンドがスタジオに入る前にはサーフ・インストゥルメンタル風に仕上げられていたが、ザッパがスタジオに入ってからは全く別のものにアレンジされた。トルネードーズは、素晴らしいレコードを作るためなら何でもするし、それを楽しみながらやる喜びを求める集団だった。この日は、バンドの友人であるジャック・セッサムスがパルのスタジオにいて、Moon Dawgの録音を見学していたが、セッサムスはその録音にボーカルとして参加することになってしまた。ザッパは、トルネードのリーダーであるジェラルド・サンダースとセッサムスに、床に犬のような姿勢をとってもらい、曲の適切な箇所で犬のように吠えることを提案し、サンダースとセッサムスもそのアイデアに賛同し、フランクの提案に従った。この小さな、しかし必要不可欠なアレンジの追加が、トルネードーズのバージョンをリンク・レイのオリジナルとは別のものにした。メンバーのローリー・サンダースの速いギター・ピッキングは、メロディックな要素と緩急するコード・チェンジをうまく聞かせている。
Moon Dawgの制作では、ザッパが後に一緒に仕事をすることになる3人の人物が関わっており、非常に興味深いものになっている。その3人とは、スタジオ・セッション・プロデューサーのニック・ヴェネット(オリジナル「ランピー・グレイビー」のプロデューサー)、後のマザーズ・オブ・インベンションのリズム・ギタリスト、エリオット・イングバー、ジャズ・レコード・プロデューサーのリチャード・ボック(バイオリニストのジャン=リュック・ポンティのアルバム「キング・コング」のプロデューサー)だ。
B面のThe Inebriated Surfer は、波音をインストゥルメンタルのフォーマットにうまく被せており、レナード・デラニーの転がるようなドラム、ジョージ・ホワイトによる短いサックスのバースト、ロリー・サンダースによるドゥエイン・エディ風のリフ、そしてロリー自身のソロの能力を加えたものである。ザッパのエンジニアリング作業の一部では、ドラムの軽快なフェージングが行われており、これがタイトルの感触に貢献している。
後のザッパの作品で使われる犬の吠え声は、1975年の One Size Fits Allの Andyのイントロの一部として使われている点からも重要であると考える。このシングルの両サイドは、ザ・トルネードーズのアルバムBustin' Surfboards(Josie JOZ 4005; 1963年7月26日発売)に収録されることになる。しかし、The Inebriated Surferのフェイシングはアルバム・ミックスには収録されなかった。両方のオリジナル・シングル・マスターの最初のリイシューは、ザ・トルネードーズのNow And Then CD(Crossfire Publications 9501-2; 2005年10月27日発行)である。