バットマン役のアダム・ウェストとロビン役のバート・ウォードが出演したABCテレビシリーズ『バットマン』の成功がレコード制作の元となった。ベテラン俳優のアダム・ウェストは独特の話し方をしていて、歌も上手かった。バート・ウォード(バート・ジョン・ガービス・ジュニア生まれ)は、まだ10代の未熟な俳優だった。ABCはバート・ウォードとABC-Paramountのレコード会社との契約を結び、そのことをビルボード誌に発表した。しかし、レコードの発売には至らず契約は破棄されてしまった。1966年6月初旬、それを知ったMGMレーベルが介入し、バート・ウォードとレコード契約を結んだことを報告した。MGMはバート・ウォードのシングルを2枚出すことを望んでいた。その時期、ボビー・ジェイムソンの最初のペントハウスのシングル制作を終えたばかりであり、フランク・ザッパは別のプロジェクトを探していた。

 バットマンの大げさなユーモアは紛れもないものだった。トム・ウィルソンはバート・ウォードと仕事をすることになり、ザッパをアレンジャー兼指揮者として迎え入れ、このプロジェクトを実現させた。バート・ウォードの歌が下手な頃がすぐに明らかになった。そのた、彼の声を音楽のバックグラウンドでの語り程度に使おうと思った。ザッパはジミー・カール・ブラック、ロイ・エストラーダ、エリオット・イングバーをT.T.G.のセッションのためにスタジオミュージシャン達と共に集めた。

 ザッパは、バート・ウォードがバッキング・トラック上でボーイ・ワンダーのファン・メールを読むというアイデアを思いついた。セッションシートにはBoy Wonder (Why I Love You)と記載されたが、結局Boy Wonder I Love Youという作品になった。Gotta Fall In Loveのバッキング・トラック(テープ・ボックスにはI Love と書かれていた)は使用されていない。最初のセッションの日に採られたもう一つのトラックはナット・キング・コールのヒット曲 「Orange Colored Sky」だった。この曲は1930年にミルトン・デラッグとウィリー・スタインによって書かれたもので、コールのバージョンはスタン・ケントンと彼のオーケストラで録音された。バート・ウォードが 「Orange Colored Sky 」をカバーしようとしたが失敗に終わり、翌日(1966年6月10日)には別のセッションが必要となった。

 Boy Wonder I Love Youは、バート・ウォードがファンからの手紙について話しをするというい内容となった。「ボーイ・ワンダーでも、沢山のファンレターを読むのは本当に大変です。ここでは、ちょうどあなたと同じくらいの年齢の人からの嬉しい手紙を紹介します。」で始まり、「ボーイ・ワンダーさん、どうか来週の土曜日に私の下に来て、一週間か二週間を共に夜を過ごしましょう。ベッドで朝食を食べさせてあげます。あなたのためにベッドを作ってあげます。あなたのことが好きだから、夏の間ずっと一緒にいてほしいの。これは女の子が書いたものだということを知ってほしい。」というような内容の手紙で、最後はコミカルなセリフで締めくくられている。ドタバタの中、ザッパが 「ボーイ・ワンダー 」を繰り返し話している声が聞こえます。このBoy Wonder I Love YouがシングルのA面になることは間違いなかった。セカンド・セッションは、テープ・ボックスにThe Comedianと記載されている未使用のインストゥルメンタルVariant Iから始まった。これに続いて、ヴォーカリストのロバート・ジョンとレコード会社の重役ラス・リーガンのTeenage Bill Of Rightsを収録したものとなり、バート・ウォードがアメリカの10代の若者たちへの要求を政治的な言葉で表現したものとなった。続くOrange Colored Skyで、バート・ウォードの歌唱は、美味しそうに悪趣味で、しゃべり部分では「バットマン」の戦闘シーンで使われるような感嘆の言葉(「フラッシュ!」、「バム!」、「アラカザム!」)が使われている。バートが曲中にHotchaと言ったのはザッパのアイデアだ。Orange Colored Skyのエンディングはザッパらしい音作りになっていた。この日のセッションに参加したマザーズのメンバーはエリオット・イングバーだけだった。最後の未使用曲であるTears Come From Loving Youは、時間切れ間際に録音された最後の曲である。このセッションから作られたシングルは2枚だけだった。モノラル・ミックスダウンのセッション・テープには、収録時間違い(カウントオフ)やアウトテイクの様々な記録(スクラップ)が収録されている。

 MGMはこのシングルのリリースに5ヶ月を要した。B面はプロモではOranged Colored Skyと誤表記されていたが、通常盤では正しく表記されている。このシングルは一度も復刻されていないが、セッションテープは広く流通している。

 バート・ウォードはこの経験から教訓を学べず、1970年、ソウルタウン・レーベルのためにボビー・サンダース・シンガーズとのA面I've Got Love For My Babyを録音した。B面のRobin's Theme はありがたいことにインストゥルメンタルだった。アダム・ウェストは1966年10月8日のテレビ番組 The Hollywood Palaceにバットマンの衣装でOrange Colored Skyを好演している。

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